日 時: 2024年7月9日(火)16:00-17:30
場 所: 11号館2階 未来ホール
講 師: 渡邉 峻一郎 先生(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
演 題: 高分子とイオンの錬金術―分子とイオンと隙間で作る金属プラスチック
講演概要: プラスチックやゴムなどに代表される有機高分子は、機械的な柔軟性を有するだけでなく
電気的絶縁体として、現代社会に欠かすことのできない基盤材料である。一方で、プラスチックは
絶縁体という常識を覆し、パイ共役系と呼ばれる特別な骨格を持つ有機化合物が半導体的な性質を
有することが1954年に東京大学の赤松・井口・松永博士らによって発見された。この研究を契機に
電気を流すプラスチック(導電性高分子)が発見され、導電性高分子は基礎からデバイス応用まで
幅広く研究開発が展開されてきた。金属や無機半導体中で電気が流れる仕組みは固体物理学の黎明期から
研究が発展しており、周期性を持つ原子の中で電子が波のように振る舞うことを根幹として、固体中の
電子伝導性は矛盾なく説明できた。しかしながら、導電性高分子における電子伝導性を説明する上で、
固体物理学の大前提は成り立たない。高分子は一次元の鎖であり、茹でたスパゲッティのように鎖どうしが
複雑に絡まっているため、固体物理学の根幹である原子の周期性を適用することができないためである。
このような複雑性のため、どのような物質設計で電気伝導性が向上するか、電子の機能性を最大化するか、
未解明な部分が多く存在していた。
高い結晶性を有する高分子材料の電子物性の理解と高機能化を目指して研究を行ってきた。
ねじれや絡まりの少ない剛直な高分子骨格を設計することで、茹でる前のスパゲッティの様に規則正しく
鎖が配列するのが特徴的である。また、図1のように周期的に配列した高分子鎖のナノメートルサイズの
「隙間」を舞台に様々な分子やイオンを格納・脱離・輸送・選択・交換することで、電子の数を
制御(ドーピング)できることも可能になってきた。様々な分光手法や低温物性計測の結果、このような
高い結晶性・高い電気伝導度が実現された高分子の中では、電子は波のように振る舞い、通常の金属が示す
電子物性をすべからく満たすことも分かってきた。つまり、固体物理学の標準理論で電子状態を説明可能な
金属高分子を実現できたと言える。講演では、高分子の結晶性と電子物性を固体物理学の観点から整理した上で、
革新的な電子機能性を紹介する。(添付資料もご覧ください)
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